最初にあの紺のセットアップを着た日、
鏡の中の自分が、少しだけ他人に見えた。
「すげぇー、いいじゃん」って、思わず声が出た。
白Tを合わせて、足元は白いスニーカー。
肩の力が抜けたようでいて、背筋はちゃんと伸びていた。
服って、こんなふうに気持ちを変えるんだなと思った。
あれから何度か、そのセットアップを着て出かけた。
娘とランチに行った日。
映画を観て、帰りにコンビニでアイスを買った日。
何もない日も、なんとなく手に取っていた。
“特別な服”だったはずなのに、
今では、気づけば一番よく着ている服になっていた。
整えようとか、よく見られようとか、
そんなことを考えなくても、
ただ「これが自分」と思えるようになった。
セットアップは、着る人を変える服じゃない。
たぶん、“その人らしさ”を少しだけ引き出してくれる服なんだと思う。
今日もまた、なんとなくそれを着て外に出た。
すれ違った誰かの視線に、
ほんの少しだけ、自信が持てた気がした。